公式の紹介文に『緑谷出久』が一度も出てこない轟焦凍

公式の人物紹介文で、緑谷出久と関係づけて紹介される人物は複数います。爆豪勝己は「デクの幼馴染み」、麗日お茶子は「デクの良き理解者」、飯田天哉は「デクの同級生になる品行方正な少年」。アニメ公式でも劇場版公式でも、この書き方は変わりません。

ところが轟焦凍だけは、紹介文の関係記述が一貫して「父=エンデヴァー」に置かれています。「雄英高校に推薦入学した、知力・体力共にトップクラスの実力者。父は現No.1プロヒーローのエンデヴァー。」アニメ公式も劇場版1作目から4作目まで、轟の紹介文は例外なくこの形で、緑谷出久への言及が一度もありません。出久と関係づけられて紹介される人物が並ぶ中で、轟だけがいつも「デクの〜」で結ばれない。

劇場版3作目『ワールド ヒーローズ ミッション』では、緑谷・爆豪・轟の3名の紹介文が揃って「エンデヴァーの元でインターン中。」で締まります。ただしこれは二人を直接結ぶ記述ではなく、共通の第三者であるエンデヴァーを介した並びです。公式の紹介文の世界では、二人を並べるたびに間にエンデヴァーが挟まる。

そして出発点は、敵対心でした。轟は当初、USJでオールマイトを助けに行った出久の行動や、麗日と飯田から聞いた話をきっかけに、出久へ敵対心を抱いています。幼馴染から始まる勝デクでも、入試の助け合いから始まる出茶でもない。一度「嫌い」が先に立ってから動き出した関係です。

体育祭・決勝2回戦。轟焦凍が「左手の炎」を解いた理由

1年A組の二人が正面から交差するのは、雄英体育祭です。障害物競争は1位緑谷出久、2位轟焦凍、3位爆豪勝己。上位がこの並びになりました。ただ、この時点の轟には自分で作った封印があります。騎馬戦を前に、轟は戦闘で左手の炎を使わないと決め、右手の氷結だけで戦うことを誓っていました。左半身の炎は父エンデヴァーの力。それを使わずに勝つつもりだったのです。

騎馬戦で出久からオールマイトに似た“なにか”を感じた轟は、トーナメント直前、出久に自らの境遇を語り始めます(アニメ第19話「全てを持って生まれた男の子」)。No.2ヒーローのエンデヴァーがオールマイトを超えるヒーローにするため、個性婚で作った子ども。母の心を傷つけた父を否定するため、炎を使わずに勝つ、と。轟が自分の家庭事情を明かした相手が、出久でした。それを受けた出久も、自分を救けてくれた人のために、ヒーローになるために勝つ、と宣言を返します。

決勝2回戦。原作のサブタイトルは第38話「轟VS緑谷」。開始早々、轟は一瞬で勝負を決めようと強力な氷結を繰り出します。出久は自損覚悟でワン・フォー・オールを発動して対抗し、凌ぐ度に負傷していく。オールマイトのようなヒーローになりたい、その一心でボロボロになりながら立ち向かってくる相手に、轟の心が揺れ動きます。そこへ出久が投げた言葉が、これです。

「君の! 力じゃないか!!」

コミックス『僕のヒーローアカデミア』5巻39話「轟 焦凍:オリジン」/雄英体育祭・決勝2回戦

「君の力」と呼ばれたのは、轟が否定し続けた左半身の炎です。むかし母からもらった言葉を思い出し、ついに左手の“個性”を解放。炎熱を身にまとい、放った言葉がこれです。

「俺だってヒーローに…!!」

コミックス『僕のヒーローアカデミア』5巻39話/アニメ第23話「轟焦凍:オリジン」

お互い100%のぶつかり合い。結果は出久が場外へ吹き飛ばされ、轟の勝利。出久は大怪我を負い、ベスト8で敗退します。勝敗はきれいに付きました。

そしてこの一戦が、轟の「その後」を変えます。決勝の轟VS爆豪では、出久との戦い以降どうするべきかと迷いが生じた轟が、左の炎を使わず右の氷結だけで攻撃する(アニメ第25話「轟VS爆豪」)。炎を使う理由を取り戻した直後に、また炎を封じる。出久との一戦が次の試合の戦い方まで動かした、という因果が作中に残っています。

呼ぶ側・応じる側、やがて招く側へ。ステイン戦から冬休みインターン

体育祭が終わっても、二人の距離は続きます。保須市でのステイン戦。出久から連絡を受けた轟が現れ、二人でステインに挑みます(アニメ第29話「ヒーロー殺しステインVS雄英生徒」)。呼んだのは出久、来たのは轟。呼ぶ側と応じる側の向きが、ここではっきり残ります。

身を挺して、動けない飯田たちを守る出久と轟。出久のフルカウル、飯田のレシプロバースト、轟の炎熱の連携で、ついにステインを倒します。そしてこの戦いの後、許可なく“個性”を使って戦った出久・飯田・轟は、警察から処分対象であることを告げられます。同じ処分を、同時に受けた。

負傷については、轟の側が責任を引き受けています。職場体験でのステイン戦で出久と飯田が負傷したことに対し、自分がハンドクラッシャーのような存在になっていると感じている。呼んだのは出久、来たのは轟。そして負傷の責任を引き受けたのも轟です。この向きは、この先も基本線になります。

仮免試験では、出久の言葉がまた轟を動かします。息が合わずその場で口論まで始めた轟と夜嵐が、出久の言葉でようやく自らの過ちに気付く(アニメ第59話「何をしてんだよ」)。体育祭に続いて二度目の「出久の言葉で轟が変わる」。ただし合否は分かれます。1-Aは爆豪、轟を除く18名が合格。出久は合格側、轟は不合格側でした。

そして関係の向きが、後半で反転します。冬休みインターン。行く宛のない出久と爆豪をエンデヴァー事務所に誘ったのは、轟でした(アニメ第102話「いざ!エンデヴァー事務所!」)。さらにパトロールの後、三人がエンデヴァーに連れていかれた先は、なんと轟家。弟の友達に会いたいと、姉・冬美が夕飯を一緒にと呼んだのです。みんなで食卓を囲み、デクと爆豪は、轟家がいまだ色々な問題を抱えていると改めて知ります。

轟家の食卓を囲む二体の木製マネキンのうち、一体が湯のみを差し出して夕食をすすめ、もう一体がそれを受け取ろうとしている場面

体育祭では轟が家庭の事情を「語る」側でした。冬休みには、出久が轟家の食卓に「入る」側になっている。語る場所は、招く場所に変わりました。その間には、死穢八斎會編で飯田や轟からの友達としての言葉に涙をこらえるデクの場面もあります(アニメ第70話「GO!!」)。ぎりぎりの精神状態の出久を支える言葉が、轟の側から出ている回です。

轟出と出轟。左右の用例数は約10倍開いている

ファンのCP名は「轟出(人物A=轟焦凍、人物B=緑谷出久)」が中心です。pixivのタグ投稿数(2026年8月11日時点)では、轟出がイラスト7,232件・小説6,255件。逆順の「出轟」はイラスト671件・小説526件で、およそ10倍の開きがあります。同作の勝デク(13,246件/16,664件)と出勝(5,205件/3,581件)が約2.5倍差であることと比べると、この偏りはかなり大きい。表記が分かれるうえ投稿は日々増えるので、この件数は支持の順位を示すものではありません。左が攻め・右が受けという並びもファンの表記慣行で、公式設定ではありません。

5chの801サロン板には、2026年8月11日時点で轟出の専用スレッドがありません。本作関連のスレッドは「勝デク」「爆豪勝己受け」「緑谷出久受け」の3本だけ。一方で「緑谷出久受け」のスレッドは159スレ目まで続いていて、緑谷を受けに置く需要が板の単位で成立しています。これは轟出について語られているスレではないので、あくまで周辺事実です。

ここからはPUTONの読みです。作中の場面を並べると、二人が並ぶ場面は「轟の物語」として描かれやすい。体育祭は轟が「炎を使わない」誓いを解く物語で、出久はそのきっかけ。仮免試験でも、出久の言葉が轟の行動を変えます。冬休みは、轟が自分の家へ誘う。語る轟、勝つ轟、招く轟。主語が轟に寄っていて、出久はその話を聞き、受け止め、時には呼びかける側に立ちます。轟出という並び順は、この能動と受動の向きをそのまま写しているように見えます。

とはいえ逆順の「出轟」も、イラスト671件・小説526件と独立して実在します。左右を行き来するリバ表記(轟出轟・出轟出)も、どちらも二桁以下で存在中。固定されているようで、実は行き来できる名称です。

公式の紹介文で互いが一度も出てこなかった二人は、体育祭の一戦を境に、呼び合い、招き合う関係になりました。紹介文の欄が空っぽな分だけ、作中の場面には二人の名前が並んでいる。その並びを追うと、轟出という名称の向きが見えてきます。