リョ桜の出発点|竜崎桜乃は越前リョーマに間違った道を教えた
原作第1話。柿の木坂テニスガーデンへの道を尋ねられた桜乃は、間違った道を教えてしまいます。悪意ではありません。極度の方向音痴という設定が、初対面でいきなり発動しただけです。
この人選が効いています。桜乃の祖母は竜崎スミレ、青学男子テニス部の監督。部の中枢に誰よりも近い場所にいる女子生徒が、テニスコートまでの道で失敗する。テニスの技量で並び立つ関係としては、最初から始まっていないわけです。

以後の接点も、ラリーを打ち合う形では増えていきません。桜乃のテニスの実力は原作で明確に描かれておらず、部内の勝敗に絡む立場でもない。接点を作る手段が、最初からコートの外側にしか用意されていない二人です。
越前リョーマの何を見ていたのか|竜崎桜乃の観戦と気づき
桜乃のプロフィールには「大会中の日課」という欄があり、そこに書かれているのが英語の勉強と、リョーマ君の応援。趣味でも憧れでもなく日課です。大会が続くかぎり、毎日そこへ時間を割く前提で設定されています。
ただし原作の桜乃は、初戦から全試合に張り付いていたわけではありません。本格的な試合観戦として描かれるのは全国大会準決勝・四天宝寺戦から。アニメ版では部内の校内ランキング戦の段階からほぼ毎試合姿を見せており、媒体で密度が違います。原作の桜乃のほうが、リョーマとの距離は遠い。
それでも、見ている側にしかできないことをやっています。偵察を避けるためにリョーマがわざとフォームを変え、下手にプレイしていたとき、それを見抜いたのが桜乃でした。技術で勝てない人物が、プレーの嘘に気づく。打つ側ではなく、見続けた側だから拾える情報があるという形で描かれた場面です。
関係が甘いかというと、そうでもありません。桜乃はリョーマから、アドバイスというよりダメ出しのマシンガンを浴びたことがあります。口癖は「まだまだだね」。手加減も気遣いも、まず言葉には出てこない相手です。
小坂田朋香と比べると見えるもの
桜乃の親友、小坂田朋香は自称「リョーマファンクラブ会長」で、リョーマを「リョーマ様」と呼びます。憧れを大きな声で宣言するタイプ。同じ場所で同じ選手を応援していても、桜乃の側は「リョーマ君」のまま、日課の欄に静かに書き込まれているだけです。
ここからはPUTONの読みになります。朋香が可視化してくれるおかげで、桜乃の応援は「熱量が足りない」のではなく「形式が違う」ものとして置かれている。声の大きさで測ると見落とす関係だと思っています。
その差が効くのが『新テニスの王子様』。合宿所を強制退去になったリョーマを、桜乃は励まします。U-17世界大会にも応援へ来ている。順風のときにはっきりした行動が残っていない相手が、脱落した場面と最高峰の舞台の両方に現れる。行き先を間違えた第1話から、遠征先まで追いついてきたということです。
リョ桜という並び|越前リョーマ・竜崎桜乃の表記順と支持の広がり
読みは「りょさく」。越前リョーマが先、竜崎桜乃が後という順で固定されています。逆順の「桜リョ」は、2026年8月5〜6日時点・未ログイン検索によるpixivタグ件数(イラスト・漫画・小説の合計)で3件。実質的に使われていません。
ここは注意が要ります。この作品のBLのCP名は連結表記の前半が攻め、後半が受けという規則で並んでいますが、リョ桜の並びは男女CPタグで男性側を先に置く慣習に沿ったもので、攻め・受けを表す表記ではありません。同じ順番でも、意味している内容が違います。
件数のほうは相当なものです。同じ条件でのpixivタグ件数は3,672件。今回の調査で確認したテニプリのCP名の中では、四天宝寺の謙光(3,931件)に次ぐ2番目でした。竜崎桜乃を含むCPタグは幸桜、王子桜、不二桜、金桜など複数ありますが、いちばん多い幸桜でも151件、金桜は44件。二桁から三桁で止まっています。四桁に乗っているのはリョ桜だけです。
面白いのは、媒体を変えると景色が変わること。2013年冬の同人誌即売会カタログを対象にしたカップリング表記調査では、テニプリの表記388件のうち男女CPは6表記(1.5%)、BLが353表記(91.0%)でした。同調査でCP表記に登場した原作の女性キャラは橘杏と千歳ミユキが各1回だけで、竜崎桜乃の表記は確認されていません。投稿タグでは2位級、サークル表記では姿が見えない。どこを覗くかで支持の見え方が反転するCPです。
掲示板の温度も一様ではありません。5chの少年漫画板には「リョーマはもう桜乃一択」という趣旨の書き込みがある一方、同じ場所に桜乃の受け止められ方をめぐる相反する見方が並んでいます。人気の総量だけを見て、支持が一枚岩だと書くのは正確ではない。
公式で確認できるのは、恋愛の宣言ではありません。道を間違え、日課として応援し、フォームの嘘に気づき、退去させられた相手を励ました。間違った道を教えた相手の、正しいフォームの嘘を見抜けるようになる。告白の場面を一つも経由しないまま、行動だけがここまで動いている。リョ桜を読むとき、PUTONが数えているのはこの四つです。