忍足謙也と財前光が組むはずだったD1|四天宝寺の「幻のD1」

全国大会準決勝、対青春学園。監督・渡邊オサムが発表したオーダーでは、財前光は忍足謙也と組んで出場する予定でした。四天宝寺のダブルス1に、3年と2年の並び。紙の上では成立していた組み合わせです。

崩れた理由は不仲でも実力差でもありません。準決勝を前に退部していた千歳千里が、渡邊の気遣いでチームへ復帰します。そして謙也は、出場権を千歳へ譲った。財前が隣に立つ相手は、急遽入れ替わりました。

実際のD1は、財前にとって特異な試合になります。手塚国光と千歳の無我の境地同士がぶつかり、事実上の一騎打ちへ。千歳の「才気煥発の極み」はダブルスでは効果を発揮せず、財前はサーブなどを除いてボールに触れないまま試合が終わりました。

謙也が席を空け、その席に座った千歳の隣で、後輩は一番何もできない一試合を過ごす。譲った側の善意と、譲られた側の格と、置いていかれた2年生。三つが同じ試合に同居しています。

「財前の頼みなんて珍しいわ!」|毒舌の財前光が忍足謙也へ頼んだ一回

財前光は、先輩相手に容赦がありません。3年の金色小春と一氏ユウジへは、何の躊躇いもなく「キモい」。青学の河村隆は「お荷物」呼ばわり。語尾に「〜っすわ」と付ける敬語交じりの関西弁ですが、丁寧なのは形だけです。大阪育ちでありながら先輩たちのボケには乗らず、新人類だのミュータントだのと言われている。この後輩は、人に何かを頼む側の人間ではありません。

その財前が、謙也には頼みごとをしています。返ってきたのがこれ。

「財前の頼みなんて珍しいわ!」

『テニスの王子様』忍足謙也。財前光から頼みごとをされた場面

謙也は喜んで引き受けました。効いているのは「珍しい」の三文字です。日常的に頼られているなら、この驚き方はしません。財前がめったに頼まないことを知っていて、それでも頼まれる位置に自分がいた。例外が起きたことを、受け取った側が先に喜んでいる。

小柄な木製マネキンが年上の大柄な木製マネキンへ頼みごとをして、相手が身をかがめて受け取ろうとする場面

頼みごとの中身そのものは、作中で明かされていません。分かるのは二点だけ。財前が頼む相手に謙也を選んだこと。謙也がその一回を特別扱いしたこと。公式に残っている二人の接点は、オーダー表とこの一往復です。数としては少ない。ただ、どちらも「選んだ/選ばれた」記録になっています。

謙光の左右|忍足謙也×財前光の並び順と、逆順「光謙」が強い理由

ここから先は謙光としての読みです。

喋り倒す3年と、受け流す2年

謙也は速い。座右の銘は「NOスピードNOライフ」で、得意技はスピードテニス。語尾には「〜っちゅー話や」。氷帝の従兄弟・忍足侑士とは3日に1度電話し、漫才のようなやり取りを1〜2時間続けます。全国大会の直前に何をしていたかというと、侑士と、遠山金太郎と越前リョーマを互いに自慢し合っていた。とにかく口が動く人です。

財前は逆。「〜っすわ」で最短距離を通り、先輩のボケは拾わずに切り落とす。同じ関西弁でも用途が正反対です。話しかける側と、受け流す側。謙光という並びは、この会話の向きをそのまま写したものだと読めます。

逆順の光謙が2,000件を超えている

とはいえ、左右は片側へ倒れきっていません。pixivのタグ件数は謙光が3,931件、逆順の光謙が2,041件。約1.9対1です(いずれも2026年8月5〜6日時点・未ログイン状態での実測。R-18作品が除外されている可能性があります)。今回テニプリで件数を確認したCP名の中では、謙光が最多でした。

逆順が支持される足場も作中にあります。財前は監督の渡邊オサムから「天才」と呼ばれ、『新テニスの王子様』では先輩世代の引退後に四天宝寺の新部長へ。対する謙也は、脱落タイブレークマッチで同じクラスの白石蔵ノ介に敗れています。学年の上下と、立場の上下が一致していない。左右を入れ替えても崩れないのは、そのためでしょう。

2013年冬のコミケカタログ調査(C85、テニプリのCP表記388件が対象)では、謙光が12表記で1位。同調査は攻受のマトリックスを見て、この二人の行にはほぼ他の人物が入らないと分析しています。分散の激しいジャンルで、ここだけ閉じている。

速さで押し続ける先輩と、動かない後輩。組めなかったD1と、一度きりの頼みごと。謙光の並びは、届いた回数の少なさを左右の順番で言い直したものだと考えています。