上鳴電気と耳郎響香を近づけたのは、黒霧の“個性”だった

出会いに派手な演出はありません。入学直後の屋内対人戦闘訓練で、上鳴電気耳郎響香は同じチームを組みます。ただ、ここから固定のコンビになったわけではない。二人がセットで動き始めるきっかけは、もっと乱暴な形でやってきました。

USJ襲撃事件です。黒霧の“個性”によって、上鳴・耳郎・八百万百の3人が同じ場所へ飛ばされ、そこで共闘することになります。以後、この3人が一緒にいる場面が増えていきました。自分で選んで組んだのではなく、飛ばされた先がたまたま同じだった。しかも二人組ではなく、最初から八百万を含む3人組です。上耳の起点は、意志ではなく事故のほうにあります。

教室での位置関係も近い。1年A組の座席は隣同士で、会話の描写もそこに集まります。上鳴は“個性”を使いすぎると脳がショートして「ウェ〜イ」しか言えなくなる体質で、耳郎はその状態を指して彼を「ジャミングウェイ」と呼ぶことがある。電気を出せる“個性”は生まれながらの勝ち組だ、といじるのも耳郎です。遠慮のない物言いは、たいてい耳郎から上鳴へ向かって飛んでいきます。

体育祭も期末テストも仮免も、二人は別のチーム

このペアの面白さは、本編の中盤で一度も同じチームに入っていないことです。ヒーローものの関係は共闘で深まるのが定番。上耳は、その王道からずっと外れています。

体育祭の騎馬戦。上鳴は轟・飯田・八百万と組み、耳郎は葉隠・砂藤・口田と組んで敗退します。決勝トーナメントでも上鳴は1回戦第3試合でB組の塩崎茨に敗れ、二人が同じ舞台に立つ機会はありませんでした。期末テストも別。上鳴は芦戸と組んで根津校長に挑みミッション失敗、耳郎は口田と組んでプレゼント・マイクに挑んでクリアしています。

夏の林間合宿でも、やっていることは分かれます。上鳴は大容量バッテリーと通電して発電と充電を繰り返し、耳郎は耳たぶのプラグを岩に打ち続ける。“個性”伸ばし訓練の中身からして交わりません。仮免試験は上鳴が爆豪・切島と、耳郎が蛙吹・八百万・障子と行動。A組・B組の合同戦闘訓練は第一試合と第四試合に分かれ、冬のインターン先も上鳴が「ラーカーズ」、耳郎がギャングオルカ事務所と別々です。

例外は、入学直後の実戦訓練で組んだ一度きり。「一緒に戦った」でこのペアを語ろうとすると、材料がほとんど残らないんです。だからこそ、文化祭が効いてきます。

文化祭で、いじる方向が一度だけ反転する

中盤までの上耳は、耳郎が上鳴をいじる一方向で描かれてきました。それが逆を向くのが、文化祭の出し物決めです(アニメ第81話「文化祭」)。音楽という趣味がヒーロー活動に結びつかないことを恥ずかしがる耳郎に、上鳴はあれだけ楽器が弾けるのはかっこいい、とはっきり伝えました。この一言が、A組の出し物をバンドへ動かす大きなきっかけになります。ふだん雑に扱われている側が、たった一度、相手の劣等感に正面から触れた場面。

ただ、背中を押したのは上鳴ひとりではありません。同じ場面では口田甲司も耳郎を励ましています。上鳴の一言を「決定打」ではなく「反転のきっかけ」として置くほうが、描かれたものに近いはずです。

こうして出し物はバンドに決まりました。耳郎がバンド隊「Aバンド」のリーダー兼ボーカル・ベース、上鳴も同じバンドの一員としてステージへ。本番は原作第182話「垂れ流せ!文化祭!」(20巻)、アニメでは第86話です。爆豪のドラムで走り出したステージで耳郎が歌い、A組を敵視していた生徒まで巻き込んで会場を沸かせました。

ミニチュアの練習室で、楽器を構えた木製マネキン2体が隣り合って立ち、音を合わせている場面

ここで演奏された「Hero too」のクレジットは「KYOKA JIRO Starring Chrissy Costanza」。曲は耳郎の名前で立っています。彼女のロック好きは音楽関係の仕事をしている両親ゆずりで、上鳴はバンドでは素人。共通の趣味で結ばれたペアではなく、片方の得意分野に、もう片方が素人のまま並んだ形です。この非対称さが、文化祭ではむしろ自然に見えました。

8年後、事務所は隣

超常解放戦線との決戦で、上鳴は最前線に立ちます。みんなと一緒にいたいと怯えながら、ミッドナイトに諭され、後ろにいる仲間のことを考えて奮起。敵幹部の電撃を吸収して無力化し、ヒーローの突撃に道を作りました。彼を立たせたのは目の前の誰かではなく、背中側にいる全員です。上耳を読むうえで、この向きは覚えておきたいところ。

第二次決戦でも配置は分かれます。上鳴は雄英の「天空の棺」でエネルギー補填を担当し、耳郎は群訝山荘跡地でオール・フォー・ワンと対峙。左耳のプラグを吹き飛ばされる重傷を負いながら、ホークスとの連携でマスクを破壊しました。1年A組で恒久的な欠損を負った、数少ない一人です。その場に上鳴はいません。最大の見せ場でも、二人の線は交わらないままでした。

そして8年後。二人ともプロヒーローとして事務所を構え、上鳴の事務所は耳郎の事務所の隣にありました。耳郎は左耳にプラグ付きの機械を着けて、失った“個性”の器官を補いながら現場に立っています。長い物語の最後に置かれたのが、告白でも関係の定義でもなく、この「隣」だった。座席の隣、バンドの並び、そして事務所の隣。同じ形が、8年分の距離を挟んで三度繰り返されます。

名前のほうも見ておきます。pixivのタグ件数(2026年8月11日時点)では、「上耳」がイラスト1,642件・小説1,212件。逆順の「耳上」はイラスト11件・小説3件にとどまり、リバ表記の「上耳上」も少数ながら実在します。矢印表記は「上→耳」だけが小説2件で見つかり、逆向きは0件。「耳鳴りコンビ」という別名も使われています。男女ペアなので攻め・受けは設定しません。件数は用例の多寡であって、順位でも支持率でもない点にはご注意を。

片方の好意が本編ではっきり示される男女ペアが同じ作品にいる中で、上耳に置かれたのは終始「隣」という配置でした。戦場では一度も並ばず、日常ではずっと隣。この二人を語る言葉は、たぶん関係の名前ではなく、席順のほうにあります。